#2
女性獣医師の
働くおもいを語る会
今や20〜30代獣医師の半分が女性という時代。
妊娠、出産、育児というライフイベントに直面した時、
彼女たちの「選択」は、
職場だけでなく、地域獣医療や業界全体にまで
影響を与えていくのかもしれません。
生産性や効率という物差しでは測れない仕事に就き、
命を預かっている彼女たちが日々どんな思いで働いているのか。
「私の」問題は「私たちの」問題として共有されているのか。
12名の皆さんにお話をうかがいました。
女って不利だな、と思ったことはありますか?

佐野 待遇とかではないですけど、飼い主さんからのリアクションで「あ、なめられてる」(笑)と感じて悔しかったことが過去に何度か。あとは体力的に。今一緒に働いてる二人(男性獣医師)、結構タフなので、「ああ元気だな…」って思ったり(笑)。物理的に力が足りなくて、外科の骨の手術とかでも。

小野 不利だと思ったことはないんですけど、強いて言うなら、就職を決める時、かなり事細かく結婚と出産のことについて訊かれるなと。結婚の予定とか、何年働けるのかとか、結婚した後はどこに住むのかとか。私が(面接に)行った病院はどこも院長と獣医師一人みたいなとこばかりだったので、一人抜けると影響が大きいからかなとは思うんですけど。

武波 私の時は、もう結婚する予定の人がいたので初めに言って。あと、給料面とかで差がつくのかどうかわからないですけど、夜勤とか夜に女性が一人で残るのはダメっていうことはありましたね。

石原 私は生理痛がすごく重い人間なので、そこがやっぱり男性との違い、女は大変だなと思うところですね。薬を使わないと歩けないぐらいだったので、しんどい時は動けなくなって、でもやるしかない。くの字になって耐えました。あと勤務医時代、診察する前に女性の飼い主さんから「男の先生がいい」って言われたことが。ただ全体的にみると女性の方がいいって言ってくれる飼い主さんも多い気はしてます。

北川 勤務医時代、男の先生に比べて不利だなとか感じたことはなかったです。体力的にも自信がありました。

尾﨑 入って1年目の時に、今はもうあまりないんですけど、明らかに女性だからっていう言い方や態度で(飼い主さんから)来られた時があって、その時はちょっと「何でかなぁ」と。

伊藤 給与面とかで男の人と差があったとかは全然無いです。飼い主さんからのそういうことは(頷き)…ただ女だからなのか、私の性格がナヨナヨしてるので(笑)私のせいなのか、わからなかったですけど。

永原 以前勤めていた病院では普通に宿直もしてましたし、雇用条件でも不利と感じるようなことはなかったですけど、大型犬とかが来ると、女の人だとやっぱり難しい部分はあるなと思いますね。

元山 大型犬の足の診察とかは気持ちも萎えますし、男の人と比べると手の大きさも違うので膝がつかめなかったりするのでちょっと難しいというのが何回かありました。外科手術も、助手なんですけど術者のフォローが体力的にできない。「ここ合わせて持っといて」とか言われても持久力とか引っ張る力とかどうしても体力的に無理なんで。男の人が助手だったらもっとラクにできたんだろうなと思ったりして。

藤井 以前勤めていた病院は全部で代診が5人くらいいて、私以外全員男性で。待遇面で差を感じたとかはなかったんですけど、やっぱり1年目位の時にちょっと怖そうな男性の飼い主さんにキツイ感じで言われたことはありました。あとは夜遅く残らないといけなくなった時、私だけ「先帰っていいよ」って言われたり。他の代診の先生達とずっと一緒にやってたのに私だけ言われたりすると罪悪感を感じるというか、それならむしろ帰りたくないと思ったりもしました。あと生理痛の話でいうと、看護師さんがオペ中、麻酔看てる時に具合悪くなっちゃって抜けていったことがあったんですけど、院長は「あの子ちょっと無理なのかな」とか言ってて、私もその時は生理痛だって知らなかったので何もフォローできなかったんですけど、あとで大丈夫?って訊いたら「生理痛で」って。

江口 それこそ私の場合は子宮内膜症で、出血多量で貧血でクラクラしてる時もありました。だから妊娠した時は、「貧血がないってこんなにラクなんだ」って思いましたね(笑)。

出産・復帰を経験された3名の先生に伺います。
不安だったこと、大変だったことは?

武波 私は二人産んだんですけど、一人目の時は一年間休んで、そのあと嘱託として市役所で働いて、それからパートで(臨床に)戻りました。その時の病院は獣医師二人が基本的に曜日交替で診ていく体制だったので、復帰していきなり一人で診るというのがちょっと。一番不安だったことですか? 正しいことができてるか、ということですね。最初の二年間だけやって休んでるから、今から見ると、そこまで自信持って一人で全部やれますってところまでいってなかった。もっとしっかり経験を積んだ後に出産ってことだったらまだ大丈夫だったのかなと。

北川 休んでる間に取り残されてる感っていうか、周りが変わってるんじゃないかみたいな、ね。情報は入ってこないし、すっごい不安は不安。

江口 復帰する時は、できてあたりまえみたいな感じで復帰するにもかかわらずね。だからめっちゃ不安ですよ。ただ私の場合は、院長が思うようにやっててそこに参加するみたいな病院だったから、わからないことは訊けば良かったし、言われた通りにやれば良かったし、そういう意味ではラクだったのかも。手探りで日々考えながらってなると、余計大変だろうなと思いますね。

北川 私は勤務医になって3年位で結婚して、3年経った頃にこどもができて。女の人っていうだけで結婚したら家の仕事って増えるじゃないですか。だから仕事以外の私生活が大変で、こどもができてまた大変で。でも仕事は同じようにやってたんですよ。男の人が手伝ったくれたとしても、女の人しかわからない家のことっていうのがどうしてもある。「女性っていうだけで大変だな」と思いましたね。子どもが夜泣きしようと、熱出そうと、産後2カ月ですぐフルで働いてましたんで。勤めていた病院が忙しいところで獣医師も5、6人はいたんですけど、副院長くらいの立場でやってたんで、相当しんどかったです。

—パワフルです。

北川 出産の前日まで働いてました(一同どよめき)。信じられないかもしれないですけど、「居てくれるだけでいいから」って。電話対応だけでもいいし、受付で話をしてくれるだけでも、処方をしてくれるだけでもいい、とにかくまわりを動かすようにフォローいれてくれって。それで近くにも住んでましたし。ほんとに体を酷使してきました。若かったからできたんでしょうけど。30才になるくらいの時ですね。

—まわりにそういう女性の先輩は?

北川 勤め始めた年、11月になった時、「うちの病院で11月まで働けた女の先生はいない」って言われました(一同笑)。ハードだからみんな辞めてったって。でも自分はスキルを上げたかったし、開業もしたかった。親も獣医じゃないし、まわりに獣医もいなかったので、自分の努力で何とかするしかないって思って。でも、開業して11年以上経ちますけど、今の方がハードです(笑)。勤務医は勤務医で大変だったんですけど、休みとなると切り替えてオフの時間っていうのがあるじゃないですか。開業してしまうと正直そういう時間はあんまりない。

—江口先生は開業されてどれくらいですか?

江口 14年くらい。

—その前は?

江口 15年くらい。だいぶん長くなりましたね(笑)。

—女性獣医師はまだ少なかった

江口 少なかったし、大変だった。今こうやって女性の獣医師さんが頑張っておられるのを見ると、心強いなと思いますよ。私は岡山に来て、こどもを産んで、それから勤務医に。その前は飼料会社の実験農場で鶏とか豚を扱ってたんで、小動物はこっちに来てからなのでそれも大変でした。初めはこどもを保育園に預けなきゃ働けないからパート。保育園から呼び出しがかかったら迎えに行かなきゃ行けないって感じだったから収入も少なかった。後にその病院でフルタイムで働くようになって15年です。産休も育休もしてくれたし、こどもが具合悪くて休むって時にも理解はありましたね。

—開業はもともとお考えでしたか?

江口 いえ、たまたま引っ越しをして通勤が遠くなったってことがあったり、両親が高齢になってその介護もあったりして、そんな時、地元でたまたま辞められる先生から「あとをどうか」ってお話をいただいて。勤めてたとこの院長とその先生が友達で、そういう関係もあって、じゃあ開業するかと。

いつか経験するかもしれない
「産休」というブランクについて。

小野 今ここで他の先生達のためにも是非うかがいたいなと思うのは、もし今から1年間職を離れることになるとしたら、その1年間で何をしておけばいいですかと。たとえば「基礎的なことをさらっておけ」とか「論文を読みあされ」とか、勘を逃さないために、休んでる間に何をしておけば良いというのはありますか?

北川 開業の準備をする間、臨床をちょっと離れただけでもそれこそ不安になったというのは確かにあるんですよ。でも今思うのは、もし1年ブランクがあったとしても、(技量的な不安要素は)自分が思ってるほどじゃないような気がするんで、もし産休がちゃんと1年とれるんだったら子どもとめいっぱい遊ぶ、それがいちばん私がしたかったことかな(笑)。でも二カ月で戻れたのは理由があって、そこの院長先生が凄く理解があったんですよ。まず近くに引っ越したんですけど、子どもを見てあげるって言われて。奥さんとおばあちゃんがずっと見てくれて。授乳もしていい、とにかく働けって(一同笑)。診察中でも二階から奥さんが「泣いてるから来て!」(笑)。だからやれただけなんで。皆さんはバリバリやられてるんだから、一年のブランクなんてたぶん自分が心配してるほどじゃなく、ちゃんと復帰できるんじゃないかと思うんですけど、どうですか先生。

江口 うん、できると思う! ただ私もその時は不安に思ってました。私の場合は仕事が小動物に変わったこともあって余計に不安があったんだけど、今にして思えば、たいしたことなかったんだなと。その時にできる子育てを一生懸命楽しむっていうのが一番いいと思う。その時にできることをしっかりやる。

小野 一年間は、子育てを、しっかり。

江口 そうそう、めいっぱい頑張って、楽しんで、しっかり。財産だから。

小野 個人的には漠然と不安があるので、たとえば普段働きながらだとなかなか勉強できない専門的なことを勉強した方がいいのかとか、忘れないように定期的にセミナーとかに顔出しておいた方がいいのかとか、いろいろ考えていたりした部分があるんですけど、今うかがって、それよりはむしろ子育てをってことなんだなと。

北川 確かにね、正直、一週間とか一カ月とかやってなかったら、私自身、今でも勘みたいなのが鈍るような気はする。でも一年産休なんだったら、その時にはもう、子育てですね。

小野 ありがとうございます! すごく今、ラクになりました(笑)

江口 私もこどもを保育園に預けて仕事に行ったときには解放感がありました(笑)。双子だったから余計大変だったけど。こども預かってくれて仕事に行けるっていうその解放感はありましたね。

—あらたに感じられたことなどありましたか?

江口 ありましたね。子育てっていうのはすごく密接な、閉鎖された空間になっちゃうので、そこから解放されるとまた子育てにも新鮮な気持ちで戻れる。それは勤務医の特権みたいなことはあるわね。仕事終わって、家に帰ったらお母さんに戻るみたいなね。そういう切り換えができることで続けられるっていうのは絶対あると思う。子育ては、楽しいよ。 自分の子はかわいい!! (一同笑)そういう経験をすると、飼い主さんがうちの子は一番かわいいって思ってる気持ちがホントよくわかる。共感できるっていうのは獣医としても力になるところだし、プラスだと思いますね。

—永原先生は将来、経営者になる立場でもあるかと思いますが、「産休」についてどうお考えですか?

永原 今のところ結婚する予定も出産する予定もないんですけど、いざ自分がそうなった時に、もし自分が一人で病院をやっていて、出産で二カ月なのか一年なのか休むとして、病院をどうしようっていうのはあって。その間、代診だったり、誰かが来てくれたり、病院を休ませずに済むっていう体制があったらいいなとは思いますけど、なかなか難しいのかなという気はしますね。何個か病院があって、そこで代診の人を雇ってみたいなことができるんだったらいいんでしょうけど、うちみたいなちっちゃい病院にってなると難しいのかな、病院をその間閉めるとかしかないのかなとか。

北川 私は開業してからもう一人産んでいて、その間、代診の先生が来てくださってたから病院は閉めずに済んだんですけど、でも、産後15日目の時に夜、電話で呼ばれて。どうしても先生が必要ですって言われて。11月に産んで、すっごい寒い日で、産んですぐってやっぱり体力をすごい消耗するんで、ちょっと気温差があるだけでもう体がついていかなくなる感じなんですよね。なのに、夜、手術室に呼ばれて(苦笑)。開業してたから最終責任は自分がとらなきゃっていうのはもちろんあるので、だから代診の先生なり誰かに頼んだとしても相当大変だとは思う。実際、「先生じゃないとダメだ」っていう患者さんが継続的に来てらっしゃるわけじゃないですか。大変だと思いますよ、やめるにやめられない、産むに産めない、みたいなね。

永原 派遣みたいに先生が来てくれる制度があれば、一人でもやれるかなとか思ったり、あと、私はいつからいつまで休みますってことがもしできたとしても、その間の看護師さん達をどうしたらいいのか、補償してあげたいけど収入はないし、みたいなことも漠然と考えたりします。

こんな制度があれば、こんな仕組みがあれば…
と考えることはありますか?

藤井  職場復帰してすぐ診察っていうのは不安かと思うので、初めは院長の診察をそばで見せてもらうというか、一緒に診てもらうような期間があった方が戻りやすいのかなとは思いますね。あとは、たとえばこどもができたとして、こどもの特別な日、誕生日とかは休みがとれるとか、家族で特別な日に休みをとりやすいとか。

元山 これは私個人の考えですけど、何かをやってもらおうっていう気があんまりなくて。今勤めてるとこにしてももう少しこうだったらいいなっていうのはあるんですけど、でも自分が選んでここに入るって決めてやりたいことをやって勉強もいっぱいさせてもらってるので、その中で今まではこうしてやりたいって思ってたけどやっぱりこうやりたいって思った時に、考えも変わって来ていてそれのニーズに合うように雇用主に何かやってほしいっていうのはなかなか難しいことだと思うし、命と向き合ってる職場なので、やっぱり無理をせざるを得ないところもありますし。でも、それが苦にならないっていうのも正直あるんです。休みの日に出てくるのも全然苦じゃないですし。女性獣医師でこの仕事を続ける、続けられる人っていうのは、「動物に向き合いたい」っていう意思が強い人が残ってるんだと思います。あと給与面で言えば、パートで働くとやっぱり給与は低いと思いますし、子どもを預けて働くって心が痛むこともあると思いますし、そっちを大事にしたいと思っちゃうと今の病院では勤め続けられないと思うし。なので自分でどうにかするしかないなと思っているところはあります。自分がやりたいことをできる環境を自分でつくってやるか、自分で開業なり自分がしたいことをやるか。誰かに何かをやってもらおうっていうのは難しいのかなと。逆に自分が雇用主だと考えたら、患者さんからそんなにたくさんもらえないのに社員にはっていうのは厳しいなと。

—頼らずに自分の力で、という考え方と皮膚を学んでいらっしゃることは関係ありますか?

元山 最初は思ってました。(皮膚なら)どこにいっても邪魔にもならず、武器にもなるかなと。外科できますって言って転職しようとしても、やっぱり男性社会の中でプライドもあるだろうし、そこの院長と外科ができるから雇ってくださいっていう交渉は難しいかなと。機器も必要だし。となると皮膚だと緊急疾患とかもないし、パートでも働けるかなってことは一年目、二年目の時に思いました。でも今はそんなに…。

—伊藤さんはどうですか?

伊藤 私は、将来設計がまだまったく立っていないのでよくわからないです。結婚するとかもまったく。なのでそれ以上あまり深く考えられないです。

「女性獣医師の働くおもいを語る会」第1回、残念ながら時間の関係でここまでとなりました。第2回の開催にどうぞご期待ください。そしてまた多くの先生方にご参加いただけますよう、よろしくお願い申し上げます。
Special Thanks!
石原 直子 12年 ほたる小鳥病院
伊藤 菜々 3年 アイビー動物クリニック
江口 俊子 29年 エグチ動物病院
尾﨑 万穂 2年 やさか動物病院
小野 美都 2年 アマノ動物病院
北川 日出美 19年 日出美動物病院
佐野 夏記 7年 だて動物病院
武波 美早 7年 やさか動物病院
永原 未悠 6年 永原動物病院
藤井 敬子 4年 ノエルペットクリニック
元山 奈津実 5年 アイビー動物クリニック
※お名前/ 獣医師歴 / 所属 、五十音順、敬称略
女性獣医師の働くOMOIを語る会
〜小動物臨床獣医師編〜
2019年01月20日 18:30〜20:00
場所/Think Camp